あの夜のことは、今でもはっきり覚えています。
窓の外に広がる街の灯りは、どこか遠く感じられて、テレビの音だけがぼんやりと響いていました。
正社員を辞めた日の夜。何かから解放されたはずなのに、胸の奥に残ったのは、妙な「空っぽさ」でした。
もう目覚まし時計に縛られない。通勤ラッシュもない。
本当なら、喜んでいいはずの自由。でも、心はどうしてか晴れませんでした。
「これからどうしよう」
「こんな気持ちになるなんて、思ってもみなかった」
転職という選択をしたのは、自分。
なのに、不安と孤独がじわじわと押し寄せてきたんです。
今思えば、それは“次の自分”へと向かう、はじまりの夜でした。
正社員という肩書を手放した理由
「辞めよう」
そう決めたのは、ある晩、家に帰ってきたあとでした。
疲れているはずなのに、眠れない。
心のどこかが、ずっと張りつめたままで、深呼吸すらうまくできない。
そんな日々が、いつの間にか“当たり前”になっていたんです。
職場では、責任ある仕事を任されていました。
周りからの信頼も、それなりにありました。
でも、そのぶん、自分を後回しにする毎日。
「誰かの期待に応えること」が、いつしか「生きがい」みたいになっていて、
本当の自分が、どこにいるのかすら、わからなくなっていました。
仕事中は気が張っていても、
家に帰ると、何もやる気が起きない。
食事を作るのも面倒で、テレビの音すらうるさく感じる。
そんなふうに心が摩耗していくのを、私は見て見ぬふりをしていました。
そしてある日、ふと思ったんです。
「このまま10年後、同じ生活を続けていたら、私はどうなってるんだろう?」って。
未来を想像した瞬間、背筋がゾッとしました。
決して衝動的な選択ではありませんでした。
時間をかけて、何度も悩み、迷って、ようやく出した結論。
それが、「正社員を辞める」という選択だったのです。
“責任”を下ろしたはずなのに、なぜかつらい夜
正社員を辞めたとき、私は「少し休もう」と思っていました。
もう朝から晩まで気を張って、責任を抱えて働かなくていい。
そう思えば、心も軽くなるはずでした。
──けれど、現実は違いました。
一息ついたはずなのに、夜になると胸の奥がズーンと重くなる。
「何もしていない」ことが、こんなに苦しく感じるなんて思いもしなかったんです。
「今日、私は何をした?」
「このままで、大丈夫なの?」
寝る前のベッドの中で、そんな問いが頭の中をぐるぐる回って、気がつけばため息ばかりついていました。
人って、不思議ですよね。
あれだけ「もう限界」「逃げたい」って思ってたはずなのに、いざ手放すと「それでも頑張ってた日々」を恋しく感じてしまうんです。
それは仕事そのものというよりも、「誰かに必要とされている」という実感だったのかもしれません。
正社員だった頃は、職場での立場や役割がはっきりしていて、良くも悪くも“やるべきこと”がありました。
けれど、その肩書きを手放したとたん、まるで社会から切り離されたような感覚に襲われたんです。
私は、誰の役にも立っていないのかもしれない。
誰からも必要とされていないのかもしれない。
そんな風に思うだけで、胸がぎゅっと締めつけられる夜がありました。
それでも、どこかで「こんな自分はダメだ」と責めてしまう。
だって、「自分で選んだ道」だから。
でもね、こうして今ならわかるんです。
人が“責任を下ろす”ときって、「疲れた」だけじゃない。
「頑張り続けた」証でもあるんだって。
あのときのつらさは、何かが間違っていたからじゃない。
むしろ、すべてのスイッチを切ったからこそ、初めて聞こえてきた“心の声”だったのかもしれません。
転職活動中、“私なんて”が止まらなくなった夜
転職活動を始めた頃は、「次こそ自分らしく働ける場所を見つけたい」という前向きな気持ちも確かにありました。でも、現実はそんなに甘くありませんでした。
求人サイトで検索しては、応募条件に目を通し、そこで毎回立ち止まるんです。
「この業務経験が求められるなら、私は無理かも…」
「このレベルのスキルを求められるなら、私なんて…」
気づけば、応募のボタンに指が届かないまま、画面を閉じる毎日。
ある夜、ふとベッドの中で天井を見上げながら、気持ちが一気にあふれ出しました。
「私なんて、何もできないのかもしれない」
「どうしてみんなは転職できてるのに、私は…」
心がざわついて眠れないまま、気づけば朝。鏡に映った自分は、少し疲れた顔をしていました。
でも、それでも――。
翌日、私はもう一度パソコンを開きました。
同じように求人を見て、また「私なんて…」という気持ちがよぎりました。
だけど今度は、その声に「でも…」と小さく返してみたんです。
「私なんて…でも、やってみなきゃ何も変わらない」
「私なんて…でも、あの日の後悔は、もう繰り返したくない」
そんなふうに、自分の中の“もう一人の私”と対話するように。
完璧じゃなくても、すぐに変われなくても、それでも少しずつ前に進もうとしている――そんな自分を、少しだけ信じたくなった瞬間でした。
もう一度、歩き出すために必要だったこと
あの日々は、気力を振り絞って転職活動を始めたものの、
気づけば「自分にはもう何も残っていないかも…」と感じて、立ち止まってしまった時間だった。
でも、そんな私の背中をそっと押してくれたものが、ひとつあった。
それは──
**「今はゆっくり休んでもいいよ」**という、ある人のやさしいひとこと。
その言葉に出会った瞬間、私ははじめて「立ち止まっても責められない」と思えた。
それまでは、自分を追い詰めるように焦ってばかりいたけれど、
“歩き出せない時間”も、自分に必要なものだったのかもしれないと気づいたんだ。
無理やり前に進まなくていい。
しっかり心を整えてからでも、きっと間に合う。
そう思えたとき、少しだけ肩の力が抜けた。
そして、何気なく求人サイトを開いてみた。
「今すぐ働くのは難しいかもしれないけど…こんな働き方もあるんだな」
そんなふうに、情報を“眺める”だけの行動が、またひとつ、小さなスイッチになった。
──もう一度、歩き出すために必要だったのは、
「今はこのままでもいい」と自分を認めてあげる、ほんの少しの“余白”だったのかもしれない。
自分に合った働き方を探してみようと思えた日
少しずつ心が落ち着いてきたある日、
ふと「前みたいな働き方じゃなくてもいいんじゃない?」と
思える瞬間がありました。
毎日終電まで働いて、休日は疲れ果てて寝るだけ。
それが“普通”だったころには、
「働くって、こういうことだよね」
と、自分に言い聞かせていました。
でも今の私は──、
「もう、あんな働き方には戻りたくない」
そうはっきり思えていたんです。
無理して続けることより、
ちゃんと自分の生活も大切にできる働き方。
不安はあったけど、
それを探すことは“甘え”じゃない。
そう気づけたのは、
立ち止まった時間があったからこそでした。
正社員じゃないとダメ?
ブランクがあると不利?
そんな声が頭をよぎることもあったけど、
今の自分にとって一番大事なのは──、
「どんなふうに働きたいか」でした。
理想を描くことから始めてもいい。
それを口にするだけでも、ちょっと前進。
「派遣」という働き方や、
週3〜4日での勤務、在宅での仕事…。
調べてみると、思った以上に“選択肢”が広がっていることに驚きました。
「こうじゃなきゃいけない」と縛られていたのは、
誰よりも、自分自身だったのかもしれません。
迷っているあなたへ──今、伝えたいこと
もし今、あなたが「もう無理かも…」と感じていたとしても、
それは終わりじゃなくて、
“新しいスタートの手前”にいるだけかもしれません。
あのときの私も、
毎朝、目が覚めるたびに
「また一日が始まってしまった」と落ち込んでいました。
周りの人に笑顔で接することさえ、つらかった。
でも、あんな日々があったからこそ、
今の自分は、自分の気持ちに正直でいられるようになったんです。
無理をしなくてもいい。
止まってもいい。
立ち止まる時間にも、ちゃんと意味はあるんです。
「こんなことじゃダメだ」と自分を責めるより、
「こんなふうに感じてるんだね」と
自分の心の声に耳を傾けてあげてほしい。
もし誰にも言えないモヤモヤを抱えているなら、
それを無理に“消そう”としないでください。
その気持ちは、きっと何かを変えたいサインです。
正社員を辞めることも、
空っぽになることも、
恥ずかしいことなんかじゃない。
むしろ、自分の心に素直になった結果──
それって、すごく勇気のある選択だと思うんです。
このブログを読んでくれているあなたも、
もうすでに“次の一歩”に向かって、
心のどこかで準備を始めているんじゃないかな。
そう思っています。
心が軽くなる“転職のヒント”
「転職しようかな…」と考えたとき、
すぐに答えを出そうとすると、かえって苦しくなることがあります。
でも、少し視点を変えるだけで、
気持ちがスッと軽くなることもあるんです。
たとえば──
✔ 正解を見つけるより、“納得”を選ぶ
誰かのアドバイス通りに動いても、
それが自分にとっての正解とは限りません。
たとえ遠回りでも、「これでよかった」と思える道なら、
それがきっと、あなたの“納得できる選択”です。
✔ 完璧じゃなくていい。“できそう”を拾っていく
「この仕事、自分には難しそう…」
そう感じるのは当たり前です。
でも、「ここなら頑張れそうかも」と思える部分があるなら、
それは立派なスタートライン。
“できるかできないか”より、“やってみたいかどうか”を大切にしてみてください。
✔ 比べるなら、“過去の自分”とだけ
周りと比べると、どうしても不安になります。
でも、ほんの少しでも「昨日の自分」より進んでいれば、
それは大きな成長です。
こういった視点は、
転職活動の最中だけでなく、
その後の働き方にもきっと役立ちます。
焦らず、自分のペースで。
心の声を丁寧にすくいあげながら──
未来をつくっていきましょう。
まとめ:「空っぽ」を経験したあなたへ、伝えたいこと
「辞めてよかった」と思える日が来る。
──そう信じて進んだのに、
いざ辞めてみると、思いがけない“空白”に包まれてしまう。
「どうして、あのとき辞めたんだろう…」
「これから、自分はどうすればいいんだろう…」
不安も、孤独も、自己嫌悪も、
一気に押し寄せてくる夜があって、
そんな自分をまた責めてしまう。
でも、それでもいいんです。
“空っぽになった”という感覚は、
実は、新しい自分を受け入れる準備が整ったサイン。
何もないように思えたその心には、
これから出会う人、学ぶこと、
働き方、生き方の選択肢が、まだ詰まっていないだけなんです。
これから、いくらでも詰めていける。
どんな形でも、あなたの色で。
だから──
今は「空っぽ」でいい。
そこから、少しずつ埋めていけば大丈夫。
あなたの歩幅で、あなたの未来を描いていきましょう。
あの日、辞めるという一歩を踏み出した“あなた”がいたように。
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